●海外移住&永住
一般的に、海外に住むというと、移住とか永住という言葉が使われます。どのような事情であれ、生活拠点を海外に移せば、それは海外移住になりますが、ここではビザ(滞在査証)の観点から、考えてみることにします。
ビザの定義では、移住も永住も同じで、俗に言う「永住ビザ」が必要になります。永住ビザとは、文字通りその国に永遠に住むことを許された滞在ビザです。そして永住ビザの特徴は各国によって若干の違いがありますが、概ね下記の事項が含まれます。
(1)出入国に関して制限がない。
(2)就労の自由が認められ、転職も自由である。
(3)医療保険、年金等の社会保障制度を受けられる。
(4)日本国籍を保持したまま、永住ビザを所持できる。
(5)年間の半分以上をその国に居住しなければならない。
(6)その国の税制に従ったすべての納税義務が発生する。
(7)懲役制度のある国の場合、徴兵の対象になる場合がある。
多くの質問や相談を受ける中で、永住ビザを取得したい、という内容がとても多いのですが、確かに永住ビザというのは、大変ありがたく利用価値のあるビザであることに違いありません。特に年間の半年以上を、海外で暮らすことを考えるのであれば、出入国の制限がなく、社会保障制度を享受できる意味において、永住ビザは理想的なものだと言えるでしょう。それでは、永住ビザを取得すれば良い、と思ってみても、実は永住ビザ取得のハードルは大変に厳しく、困難を極めます。
移住先の人気国である、アメリカ(ハワイ含む)、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドに関して、おおよその永住ビザ取得の条件を下記に記してみます。ただし、それぞれの国によって若干の違いがありますから、詳細は割愛いたします。
(1)その国の国籍保有者と結婚する場合。
(2)国連から認定されている国、地域からの難民受け入れによる場合。
(3)投資移民
(4)ビジネス移民
(5)特殊技能者移民
(6)退職移民
おおよそ、この6つの事項に当てはまる条件をそろえないとなりません。
(1)その国の国籍保有者と結婚する場合。
国際結婚のことです。たとえば、アメリカ人と結婚した日本人には、アメリカの永住ビザが発給される、という具合です。近年、永住ビザ取得を目的にした偽装結婚が相次ぎ、各国の移民局は大変神経を尖らせていますので、結婚から一定の観察期間を経ないと、ビザが発給されません。また、国際結婚と言っても、結婚する相手が自国での犯罪歴、税金未納歴、無職、というような場合は、発給が認められないというケースも報告されています。
(2)国連から認定されている国、地域からの難民受け入れによる場合。
たとえば、ベトナム戦争以降、アメリカは毎年たくさんのベトナム人難民をアメリカに永住させていました。近年ではボスニア紛争後、難民となったコソボ人を、カナダは国連からの要請で、難民移住させていました。当たり前のことですが、日本人は難民として認定されていませんので、この項目には該当しません。
(3)投資移民
その国によって金額に若干の誤差がありますが、約5000〜8000万円を、永住希望国に直接投資する方法によって永住ビザが発給されます。ここでよく誤解があるのは、そのお金を、銀行口座に預けたり、不動産を購入すればいいのだろう、と思われる方が大変多いのですが、実はそうではありません。あくまでも直接投資にならないとだめですから、移民局が指定する株や債権を購入するとか、既存の法人を買収するする、という形にならないとだめなのです。また、株や債権の場合は、あらかじめ指定された銘柄を購入させられる行為に等しく、その後3〜5年間は換金できないなどの厳しい規制がかけられます。
この方法は、華僑の資産家がよく使う方法ですが、簡単に言うとしたら、5000〜8000万円で永住ビザを買うということです。
(4)ビジネス移民
その国で新たにビジネスを起業するか、あるいは既存のビジネスを買収することが最初の条件です。そして、申請者が経営者としての経験、またはそれに見合う実務能力があることも条件となり、さらに事業規模に応じた雇用を義務づけられます。投下資本は、約2000〜4000万円ほどのケースが多いようです。ここに該当するビジネスとは、商店程度の規模ではなく、ある程度の会社規模であることが条件となります。
(5)特殊技能者移民
20〜30年前でしたら、すし職人、植木職人であれば、特殊技能者として認められ、取得がきわめて簡単でした。10年ほど前でしたら、歯科技工士も簡単に永住ビザが取れていました。現在、日本人の特殊技能者として認められているのは、高度なコンピューター技術者、重電設備技師、バイオ関連の最先端研究発者、など極めて限られた職種に限定されているようです。
また、日本の資格はビザ申請において、ほとんど効力を発揮しませんので、よほど特殊な資格以外は、期待しないほうがいいかもしれません。ここで言う特殊技能者移民とは、本当の意味での特殊な技能、才能、を持った人という意味になり、最近の例ですと、イチロー、小室哲哉、などのように、高額所得とそれに沿った納税を前提にしているケースです。つまり、特殊技能とは、その国ですぐ働けるということであり、また自国では雇用できない状況で、外国から移民という手段で調達する以外、方法がない、という論理に沿っていないとなりません。従って、かなりの特殊技能を持った方に限定されるとお考えください。
(6)退職移民
一定条件をクリアすることで発給される退職者に向けた永住ビザです。現在、アメリカ、カナダ、ニュージーランドはこの制度がありません。オーストラリアには日本人に向けた退職移住制度が存在しています。退職移住の場合、その国で就労ができない、ということが条件となります。つまり、いまさら働かなくても暮らしていける人に限定している、という点を最初に確認しておかなくてはなりません。そして、総資産額と年金や利子所得による年間の収入が一定額をクリアしていなければなりません。
ここでも多くの勘違いがあるのですが、日本で退職したから、物価の安いオーストラリアで年金で暮らそう、と単純に思ってしまう人がとても多い、ということですが、すべては相手国の移民局の求める金額をクリアしていないと、いくら本人が年金で暮らせます、と言っても認められないと言うことです。たとえば、オーストラリアの退職移住制度の条件は、
(1)送金が可能な約5500万円の純資産があること。
(2)または、年金や利子配当など年間約370万円の送金可能金額と1700万円以上の純資産があること。
(1)については、送金が可能な、ということの意味は、要するに現金または換金性が高い債権や株の保有金額の合計が、5500万円以上なけれなならない、ということになります。
(2)については、おそらく一般的には、こちらが楽だと思いますが、1700万円以上の純資産を持ち家で評価したとしても、年金と利子配当所得で、年間約370万円の送金が可能かどうか?という点は、現在の日本の年金制度の状況を推察すると、なかなか厳しいと言わざるをえません。
以前、私の両親が、「退職したようなものだし、夫婦二人でオーストラリアに行って暮らそうと思う。最近、買った雑誌によると、退職移住ビザという制度があるから、それを利用したいのだが、どう思うか?」と尋ねてきました。私は上記の条件を説明し、「これらの条件を満たせるのか?」と尋ねましたが、両親は面食らったように困惑し、うつむいてしまいました。それ以来、この話は一切、出ていません。
つまり、いくら退職移住と言っても、結局は資産をどれくらい持っているか?ということを言及される意味においては、簡単な話ではないように思います。もっとも、これらの条件を、たやすくクリアできる方にとっては、何も悩むことはありません。
(注意) ここでお伝えしました永住ビザは、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの規定を基に組み立ててあり、また、移民法は各国とも、独自の審査基準に沿っていますので、一概にすべての国が同一条件ということではありません。また、永住ビザに関わる移民法は、その国の、経済事情、失業率、政治事情によって毎年見直されていますので、さらに詳しい情報をお求めの場合は、専門のコンサルタントにご相談をされてください。
以上、ここまでが、「永住ビザ」に関わるお話です。 外国に住みたいから、永住ビザがほしい、と言ってみても、実態はなかなか難しいということをお感じいただけたことと思います。あるいは、「これなら自分にとって簡単だ。」と思われた方もいるかもしれません。いずれにしましても、クリアするべき条件を満たしているかどうか、を冷静に見極める必要があるということです。その上で、果たして自分にとって、永住ビザ取得が理想なのかどうかを見極めて頂きたいと思います。
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