●留学・就労・旅行

 永住とは違った方法で、海外生活をする手段として、留学、就労、旅行があります。これらは、あらかじめ一定期間の滞在となりますから、いつかは日本に戻る日が来る、という前提になります。

 (1)留学ビザの場合
 たいていの場合、あらかじめ学校に所定の授業料を支払うと、その学期期間について滞在できる許可証が発給されます。これを留学ビザと称しています。滞在中の就労は一切認められませんので、授業料、生活費の一切はあらかじめ用意しておかなければなりません。近年、日本人の中高年者に向けた海外留学プランが活況を呈しています。せっかく海外で生活をするのなら、英語を勉強してみたい、と考える方が多いようです。

 実は、私もこの方法が海外生活を最初に求める中高年者には、一番理想的なのではないだろうか、と思っています。今更、学校に行くなんて、と思われるかもしれませんが、日本の学校と違い、海外の学校で学ぶ学生は実に様々な年齢層の方が通っています。また、一口に留学と言っても、必ずしも大学だということではありません。むしろ、一般に言われている海外留学で、最初から大学に行ける人は、ごくわずかです。ほとんどは、大学の付属機関の英語学校で学んでいるわけですから、ちょっとした英語学校に通うのだ、と思えばいいのです。

 中高年のご夫婦、退職されたご夫婦が、ともに留学をされたとしたら、まず退屈になることがないでしょう。少なくとも、週のうち何日かは学校に行くわけですし、きっと宿題もあると思います。これだけでも、退屈になる要素は軽減されます。また、同じ教室の生徒さんと知り合うことで、交友関係も広がるでしょう。そして、学期が終了したら、留学ビザの期限も切れますから、日本に帰国されれば良いわけです。また、もっと滞在を延ばたい、と思えば再び授業を受ける申請をし、授業料を支払い、ビザの延長申請をします。こうすることで、求める期間をある程度、自在に延ばすことができますから、その国、その町が気に入れば、住み続ければいいですし、または違った国へ改めて留学することも可能になります。

 留学生の立場になると、学校が実施している健康保険にも加入できます。おおよそほとんどの学校は、学生のための健康保険組合を独自に作っています。実は、これのメリットは大きく、観光ビザで滞在する場合は、その国の医療保険を受けられません。留学生という立場で、安全に海外生活を送れるばかりか、退屈することなく滞在できますから、私は個人的にこの方法が、今後ますます増えてくるのではないだろうか?と思っています。


 (2)就労ビザの場合
 外国で働く場合は、就労ビザが必要となります。このビザが無いと雇い主は、雇用してくれないのです。外国で働くということの意味は、その国にとってみると、自国民の就労機会を奪われたと見なされます。そして失業者が一人増えた、という理屈になってしまうのです。日本も含めて、すべての国は、国民の安定雇用を最重要視しますので、いたずらに外国人に働く機会を与えることを拒みます。従って、「外国に住みたいので、働くために就労ビザをください。」と言っても、100%不可能なのです。これは間違いの無いことです。

 就労ビザが認められるのは、たとえば日本企業の現地駐在員の場合です。あるいは、雇用主が雇用を保障してくれた場合で、自国では雇用できない特殊能力を持っているということを、移民局が審査し、認めた場合に限られます。これが非常に厳しく、たとえば雇用主が認めたとしても、「なぜ、わざわざ外国人を雇わなければならないのか? 自国で確保するために職業安定所に申し出なさい。」という行政指導を受けてしまいます。申請から審査に至るまでの過程が長く、よほどの理由がない限り、まず認められません。

 海外生活を求める場合、「ある程度の収入が必要なので海外で働きながら暮らしたい」、という希望やご質問が多いのですが、これはまず、不可能だということになります。日本で少々のアルバイトやパートをするような感覚で、海外で働くことが出来ません。職種、動労時間、収入を問わず、この厳しい就労ビザが必要となるからです。


 (3)観光滞在の場合
 観光ビザは、文字通り観光を目的にした旅行で、その国に滞在するということです。日本人の場合、ほとんどの国へはノービザで渡航が認められます。原則として3ヶ月までの滞在が許され、その後の延長申請でさらに3ヶ月が認めら、合計6ヶ月の滞在をすることが出来るわけです。観光ビザですから、すべての就労は許されません。滞在に関わる生活費は、あらかじめ用意する必要があります。

 観光ビザを利用した外国の滞在について、注意しなければならないことがあります。このことは昨今、多くの方が誤解をされ、また海外生活に関する書籍の中でも誤解を生じる文面が多く、私はいつも海外生活を求める方々に慎重にアドバイスをしておりますが、それは、観光ビザの滞在の期間に注意する、ということです。つまり、観光目的で入国し、その国に滞在する場合は、観光旅行者でなければならない、ということですが、この意味を各国の移民法的に解釈すると、滞在日数の合計が、年間の半年未満でなければならない、ということです。

 多くの勘違いの中で目立つのは、カナダに半年ほど滞在し、いったんアメリカに1〜2ヶ月出て、その後またカナダに戻って半年滞在し、再びアメリカに出て1〜2ヶ月旅行をして、カナダに戻って、という繰り返しをする、という内容なのですが、結論から言いますと、これは違法行為と見なされます。 これに対して、「まさか!」と思う方が大半なのではないでしょうか。

 まず、アメリカ、カナダ、メキシコの北米3国は出入国に関して、共同定義を定めています。出入国としてカウントしない、ということです。つまり、観光滞在においては北米という一つの国として定義しているのです。観光ビザで、上記のような方法を用い、アメリカとカナダを行き来することが合法とするならば、永遠に北米に居住できてしまう、ということになってしまいます。これは、その時点でもはや旅行者じゃなく、居住者であるということになり、観光ビザにそぐわない、ということです。

 また、カナダで6ヶ月滞在し、日本に帰国して1〜2ヶ月の滞在後、再びカナダに戻って6ヶ月滞在する、ということも違法行為と見なされます。観光ビザである限り、年間の半年未満の滞在でなければならないからです。このことの意味は大変重要で、多くの方が誤解をされていますので、もう少し深く掘り下げてみます。まず、年間の滞在日数が半年未満でなければどうなるか、と言うと、それは旅行者ではなく、居住者であり、そして不法滞在者とみなされてしまいます。これを判断するのは、各国の入国管理局の係官です。外国に到着した時、パスポートを見せて入国のスタンプを押してくれる、あの係官です。この係官の判断ひとつで、どうにでもなってしまうのですが、係官の厳しさの度合いは、非常に差があります。結果として、何も処罰が無かったという方もいますが、処罰を受けると大変なことになります。まず、入国拒否を受けます。そして5〜10年間の入国禁止を受けます。これは出入国管理法違反に適用されますから、その後の入管のデータに残ることになります。

 こうした危険性を知った上で、またそれを承知で、観光ビザで半年以上の滞在を繰り返すのでしたら、もし本当に入国拒否になっても納得ができるのかもしれませんが、こうした事情を知らずに、それがまさか違法だと知らずに、処罰を受けたとしたらどうなると思われるでしょうか? 実は私は、1990年にアメリカの入管で入国拒否を受け、10年間のアメリカ入国禁止を言い渡されました。出入国管理法違反となったのです。アメリカからカナダへ渡り、日本への帰国便がロサンゼルス発だったため、カナダのバンクーバーからロサンゼルスへ向かうときに、入管でアメリカ入国拒否を受けました。このときの精神的なショックは想像を超えるほどのもので、しばらくの間はそのショックから立ち直れないほどでした。見方を変えれば、犯罪者と同じだと思うと、今でもそのショックは消えません。

 このような危険性をはらんでいるのが、観光ビザを使った複数回の海外長期滞在です。私のような入国拒否を受けている方は、年間にかなりの数になっているはずです。ところが、自分の恥をさらすようなことを自ら世間に露呈する人はいないですから、観光ビザによる滞在の危険な実体験を知ることが、普通はできないと思います。観光ビザによる海外滞在については、長期になる場合と複数回に渡る場合に限っては、注意すべき点があることをご理解ください。