●怪しい情報が多すぎる
私たちが一般的に外国の国や、その国の町をつぶさに知る機会は、テレビや雑誌に頼るところが大きく、それらメディアの報ずる内容に対して、何ら疑いを持たないまま信じてしまう、というケースが多いのではないでしょうか。そうしたメディアが発する情報が間違っていたり、事実と異なるという訳ではないでしょうが、情報を鵜呑みにすることは、必ずしも正しい結論を導くとはいえません。
例えば、海外旅行情報と海外生活情報は、基本的に違うはずです。旅行情報は、楽しむための情報で言い換えれば、いかにお金を使って楽しめるか、という前提に立っています。しかし、生活情報というのは、日常よりも出来ることなら割安な生活スタイルを実現するための情報でなければなりません。旅行情報と生活情報は違う、ということは案外すんなりと頭に入り納得して貰えるのですが、実は分かっているつもりでも、よくよくお話を聞いてみると、分かっていないケースに遭遇する機会が多々あります。旅行雑誌で多く露出している町だから、そこが「良い町」だと決めてかかってしまい、反対に「聞いたことのない町」は、良い町ではない、と無意識のうちに決めていませんか?
ハワイは有名だから、ハワイは良い。カナダならバンクーバーやビクトリアは有名で、よく雑誌に載っているから、自分自身も知っている、聞いたことがある、だから良い町なのだと。これは間違いではありませんが、そうした表面的な情報を頭から信用してしまうことは非常に危険であり、賢い情報選択とは言えません。
世の中には、裏と表があるように、また物事には建前と本音があるように、旅行雑誌にも建前と本音、裏と表があります。旅行雑誌は表向きは読者、つまり旅行者のための情報を提供する媒体となっていますが、実態は広告主の宣伝のための媒体です。雑誌社はそれら広告主が支払う広告料によって賄われていますから、スポンサーである広告主の意向に沿うわけです。そして広告主とは大手旅行会社や航空会社が主体となり、現地の旅行会社、お土産屋、レストランやホテルがこれに続きます。旅行雑誌の実態は、広告費さえ払ってくれれば、喜んで掲載する訳ですから、果たして本当にそこに載っている情報が、正しいのか、必要なのか、となると疑う余地もあると思わなければなりません。
お手元に旅行雑誌がある方は、パラパラとめくってみるといいでしょう。そこに書かれている、紹介されている町は、よくよく見ると大手旅行会社のパッケージツアーのコースになっている町ばかりが紹介されているはずです。これは消費者を商品に誘導するためのマーケッティングを兼ねた営業手法です。
(1)雑誌を見た読者が、その外国へ旅行したくなる。
(2)雑誌で気に入った町を決めて、旅行会社に相談に行く。
(3)旅行会社には既にパッケージツアーが揃っている。
旅行会社は予め、パッケージツアーに組み込まれた町を、雑誌社に掲載させるので、読者は知らず知らずの内に、旅行会社の企画したパッケージツアーに乗せられてしまう、という方程式になっています。ただし、これはいけなことではありませんし、短期の旅行をエンジョイするためなら、むしろ効率的でプラスに左右する面の方が大きいので、何ら問題ありません。ただし、こうした感覚で、海外生活をする町を選ぶとしたら、その判断は誤っていると言わざるをえません。
そして、海外生活を楽園のように思わせてしまうキャッチコピーというものがあります。海外生活を推奨する関連書籍や、ホームページに必ず登場するキャッチコピーには、以下のようなものがあります。
(1)一年を通して暖かく快適な気候
(2)物価が安い
冷静に見極めれば、とても曖昧な表現であることがわかります。例えば気候について「暖かい」とか「快適な」というのは、人それぞれ感じ方が違うはずです。暑さよりも寒さに強い人もいますし、その反対の人もいます。年中温暖な気候、ということは冬が無いということですから、スキーができないことに不満を抱く人もいます。また四季が無いことを受け入れられる人もいますし、そうでない方もいます。つまり、快適な気候というのは、個人差がかなりあるのです。ところが、一年を通して暖かい気候が、そのままパラダイスというようなイメージになってしまい、海外生活につながってしまうとしたら、これは大きな勘違いだと言えるでしょう。
物価についても、大雑把な言い方をすれば、世界の国の中で生活物価が日本より高い国は基本的にはありません。日本はデフレというものの、競争力のある会社や製品の値段が以前より下がっているか、あるいはモノが売れないため、在庫過多になり値下げを余儀なくされているだけの話です。つまり、特に必要でないモノが安くなっているだけです。肝心の公共料金の値段はむしろ高くなっていますし、様々な名目での増税や、保険料年金の支払い増額、年金給付の減額など、家計を足し算引き算していけば、とてもデフレの恩恵をうけているとは思えないはずです。従って、基本的には日本より物価の高い国は無い訳ですから、ある一定の国を指して、「日本より物価が安いです」などと言うのは、全くあてにならないキャッチフレーズなのです。海外生活を目指される方々は、こうした意味もないフレーズに惑わされないようにしなければなりません。
実名は伏せますが、最近、書店で多く見かける海外生活関連書籍の中で、人気となっている著者の方がいます。私は出張で日本に帰国するたび、この方の海外生活をテーマにした本を購入します。購入する目的は、どんなピントはずれのことを書いているのか、を知るためです。ある一冊に、この方が書いていた「海外生活をする候補地」というトピックがありました。約20の国が掲載されていましたが、カナダは載っていませんでした。どうしてカナダはリストアップされていないのかな?と不思議に思いましたが、その理由は次のようなものでした。
(1)カナダは寒い国
(2)私は寒い国が嫌い
私は、著者の無知無能ぶりにあきれました。カナダが寒い国というイメージは、どういうわけが日本人が普通に抱くイメージです。私も最初はそうでした。でも実際はどうなのでしょうか?カナダは寒い国なのでしょうか? カナダは寒い国・・・これは間違いです。正しくは寒冷地と温暖地が混在した大陸であり、気候条件を列挙すると
(1)ツンドラ気候
(2)極寒冷気候
(3)寒冷気候
(4)山岳気候
(5)内陸性気候
(6)準砂漠気候
(7)西岸海洋性気候
(8)西岸多雨気候
(9)東岸寒冷気候
等に細かく分布されます。専門的なことはさて置き、ここで参考例となる質問を投げかけてみます。もし、外国の人から「日本は寒い国ですか?暑い国ですか?」と聞かれたら皆さんはどんな回答をしますか? 「日本はですね・・・ええと??? 北海道は寒くて、東北は雪深く、東海地方は温暖でミカンが獲れるし、近畿地方は暖かくて、え?でも京都の冬は寒いって?? 四国は年中暖かいんでしょうか? 九州もそんな感じですよね? 沖縄は常夏でしょう・・・。 でも最近の夏はメチャクチャ暑いですよねえ。」
狭い狭いと言われている日本ですら、土地柄や地域によって気候は様々に変化します。カナダは日本の27倍の国土を持つ広大な国ですから、考えてみますと気候の特徴は日本よりも千差万別なのです。カナダは寒い国という一言で片づけてしまうのは間違った認識を自らに与えてしまいます。
カナダの気候を理解する上で、ポイントとなるのは、西海岸と東海岸、そしてロッキー山脈です。ロッキー山脈はバンクーバーのある西海岸から約1000km内陸に位置しますが、世界地図で見る限りほとんど西海岸に接している印象を受けます。西海岸からロッキー山脈までの東西約1000kmの範囲が温暖な地域で、この中に準砂漠気候も属しています。現在、私が住んでおりますケロウナ市もこの気候帯に含まれますため、夏は日中の最高気温が35度に達します。冬は比較的温暖で町中には、ほとんど雪が降りません。バンクーバーは雨が多くなりますが、真冬の体感気温は東京と同じです。ケロウナ市の冬も間違いなく長野より暖かいですね。このように、海外生活のスペシャリストだと言っている人ですら、とても貧弱な考え方しか持ち合わせていません。
世の中にはいろいろな情報が出ています。全てが正しく、正確な情報とは限りません。テレビで放送していたから間違いないとか、有名芸能人が喋っていたから間違いないとか、雑誌に載っていたから・・・というような安易な判断をしないことが肝要です。海外で生活をするとなると、本格的に情報を取り入れなければなりません。本当に必要な情報は、本屋さんに売っている旅行雑誌に載っているようなことでは無いはずです。インターネットが発達した便利な時代ですから、とにかく時間をかけて、本物の情報を集めてみることが海外生活をより具体化するための第一歩です。
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