●日本が恋しくて帰りたい

　海外で生活を続けていますと、日本に帰りたいな、という気持ちが誰にでもあるのです。長く住んでいる人ほど、こうした気持ちを口には出さないかもしれませんが、確実に心のどこかにあると思います。日本に帰りたいな、という気持ちは私も持っていますし、妻も持っています。ただ、ここで言う「日本に帰りたい」というのは、あくまでも一時的に日本に行ってみたい、という意味のものであって、海外生活に終止符を打つ、ということではありません。

　私は幸運なことに、春と秋に日本に出張しますので、それぞれ１０日間ほどの日本滞在を楽しんでいます。と言っても、仕事であちこち駆け回っていますので、それなりにハードな毎日ですが、これはこれで楽しいものです。見方を変えれば、カナダから日本に観光旅行に行っているようなものですし、懐かしい日本の風情に触れたり、友人知人に再会したり、親兄弟の顔を見ることはとても楽しいことです。

　１０日間ほどの日本滞在を終えた後、再びカナダに戻りますが、この話を聞いたカナダで暮らす日本人の友人は、いつも決まったように、「たった１０日間ですか。勿体ないですねえ。私だったら３〜４ヶ月日本にいますよ。」　と勿体なさそうにそう言います。このように感じてしまう海外居住の日本人の方々は、別にホームシックになっている訳ではありません。ですが、そういう気持ちを持ってしまうことは紛れもない事実です。ただし、こうした気持ちにならない人がいます。それは、

　（１）留学やワーキングホリデーなどのように一定期間が過ぎたら日本に帰国する人。
　（２）ロングステイのように基本的に日本に戻ることができる人。

　こうした方々は、「日本に帰りたい」という気持ちにはならないでしょう。時間が経てば、やがて日本に帰国する訳ですから、むしろ、日本には帰りたくない。という気持ちの方が強くなるのだと思います。考えてみれば、人間はわがままな生き物なのかもしれませんね。帰国する日程が決まっていると、帰国したくないと思い、反対に帰国する必要がない永住という立場になると、次にいつ帰国できるか分からないと言う思いがつのり、一時帰国したくなるのでしょう。

　こうした思いに包まれることは、何も悪いことではないのです。しかし、一時帰国したいなあ、と思っても実際にそれが叶えられない立場になると、海外生活をしていることが苦痛になってくる場合があります。留学生として海外へ渡り、現地の人と結婚した後、実際の生活になった途端、果たして今後、日本に一時帰国できるのだろうか？という不安に襲われる人が結構多いようです。そうなってしまう方は、留学やワーキングホリデー、あるいはロングステイの方々ではなくて、永住ビザを取得した後、完全移住という形で海外に住む人だけに見られる心情のようです。